読書ノート「乱読のセレンディピティ」

基本情報

  • 著者:外山滋比古(お茶の水女子大学名誉教授)
  • 出版社:扶桑社文庫
  • 出版日:2016年10月10日(2018年1月30日 第8版)
  • 読了日:2018年7月19日

概要

気の向いた本を手当たり次第につまみ食いして読む「乱読」。大学教授である筆者は、以前は本を丁寧にじっくり読んでいた。その筆者が「乱読」に転向するきっかけは、学生達が書いた卒業論文。よく勉強し、まじめな学生は本を写したようなつまらない論文を書いたのに対し、あまり勉強熱心ではないが、好きな本を読んでいる学生は論文とは言えないまでも、自分の考えたことが出ているおもしろいモノを書く。

筆者曰く「風のように」たくさんの本を「乱読」することで、そこから「セレンディピティ(偶然・予想外の発見)」が生まれる。本書では筆者が実践している「乱読」の方法とその効用が紹介されている。

印象に残った言葉や表現

アルファー読みとベーター読み

アルファー読みとは、読み手があらかじめ知識として持っている内容を読むこと。小説や文学作品は未知の内容でも日常的な言葉で綴られているから、アルファー読みができれば読める。ベーター読みとは、内容、意味が分からない文章の読み方。「乱読」が出来る人はベーター読みが出来る人。小説ばかり読まず、ジャンルにとらわれず興味に任せて読むの良い。

筆者は、乱読の入門テキストとして新聞を挙げている。まずは見出しを眺めておもしろいと思った記事はリードのところを読み、それが面白ければ最後まで読む。

セレンディピティ

思いがけないことを発見する能力。科学分野で失敗が思わぬ大発見につながったときに使われる。有名な事例として、本書でも紹介されているペニシリンの発見が挙げられる。イギリスの生物学者A・フレミングがブドウ球菌を培養中に、誤って青カビを混入させてしまったが、その青カビの周りのブドウ球菌が消えていること気づき、青カビに抗菌作用のある物質を発見し、ペニシリンと命名した。

読書の化学反応

たくさんの未知のジャンルの本を乱読すると、本の内容がそのまま頭に入ることはまずない。全体的に面白くなく途中で読むのをやめても、軽い気持ちで読んだ本は心に残る。全体は頭に入っていなくても、部分的に頭に残るものがある。それが頭の中で化学反応を起こす。化学的なことは失敗が多いが、失敗の中に新しいことが潜んでいる。それが「セレンディピティ」につながることがある。

修辞的残像

言葉はひとつひとつの残響、残像をもっていて次の言葉に結びつく。英語で字面だけでは文法に反している文章でも、文章中に配された複数形の人称代名詞が文章全体に働き、単数形であるはずの動詞が複数形になる。筆者はそれを修辞的残像といっている。

せまい専門分野の本ばかり読んでいると専門バカになり、頭がクリエイティブでなくなる。風のように早く乱読することで、頭にその本の残像を残すことで、後に意外なアイディアが生まれる。

知的メタボリック・シンドローム

消化しきれないほどの知識を抱え込み、ものを考える力を失った状態。「乱読」により得た知識は自然にまかせて忘却するのがよい。睡眠や体を動かすことで記憶の新陳代謝が起こる。記憶から新しいものが生まれる可能性は小さいが、忘却が加わり、よい記憶は忘却をくぐり抜けて再生される。忘却により記憶が創造的変化をする。

感想

一つの章に1500文字(文庫本3ページ)程度の小テーマが3から6個あり、それぞれが独立しているので、どこから読んでも面白く読める内容。まさに「乱読」向きの本といえる。「読書の科学反応」「修辞的残像」など本書には筆者の造語がたくさん出てくるが、どれも本質を突いていて、かつ、面白い。このような造語も筆者が乱読した結果のセレンディピティなのだろう。

筆者が本書で多用している「専門バカ」とは、専門書ばかり読みあさり、知識で頭がいっぱいになった結果、頭の中がクリエイティブな状態にない人のこと。筆者も述べているように、本が少なかった昔は一つの本をじっくり読むのも良かったのかもしれないが、今は本があふれているし、また、ライフスタイルとして一つの本をじっくり読む時間もない。

まして今は、専門的な知識はネットで調べれば、ある程度すぐに手に入れられる。筆者の主張するように手当たり次第に気の向いた本を「乱読」し、後は忘却にまかせて頭の中で化学反応が起こるのを待つのが、時間がない現代のライフスタイルにマッチした読書スタイルだと思う。

目次

  • 本はやらない
  • 悪書が良書を駆逐する?
  • 読書百遍神話
  • 読むべし、読まれるべからず
  • 風のごとく…
  • 乱読の意義
  • セレンディピティ
  • 『修辞的残像』まで
  • 読者の存在
  • エディターシップ
  • 母国語発見
  • 古典の誕生
  • 乱読の活力
  • 忘却の美学
  • 散歩開眼
  • 朝の思想

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