読書ノート「住みたいまちランキングの罠」

基本情報

-著者:大原 瞠(行政評論家)

-出版社:光文社

-出版日:2018年3月20日

-読了日:2018年10月19日

概要

近年、子育て支援や老後の生活など、さまざまなジャンルで「住みたいまちランキング」が流行している。こうしたランキングに呼応して、どの市区町村でも新たな住民獲得と既存住民の流出防止に向けて、さまざまな分野で住民サービス向上競争が続けられている。しかし、過剰な競争が続いた結果、負担増を伴わない耳当たりのよい「住みやすいまち」を追い求め、表に現れない財政上のダメージ(将来へのツケ)が溜まってきている。

本書は、市区町村の行政職員の声なき声をもとに、子育て環境など「住みたいまちランキング」で使われるいくつかの分野を切り口として、住みたいまちに隠された“不都合な真実”に光を当て、具体の事例を挙げ、住みやすいまちをアピールするために、それら市区町村が行った税金の投入が、本当に意味があるのかについて、問題提起を行っている。

印象に残った言葉や表現

保育所併設マンションの「不都合な真実」

保育所が併設されたマンションでも、それが認可保育所の場合は、市区町村が「利用調整」と称して、所得の低い世帯などを優先して入れることになる。豪華なマンションに併設された認可保育所に実はマンション住民は一人も通っていないということが現実に起こり得る。

病院数・ベッド数のマジック

外来や急患を受け入れる病院は一般病床と呼ばれる。一般病床の他、慢性病で長期入院する病院や結核などの感染症で入院・療養するための病院がある。日本の病院のベッド数の半分近く(42.9%)がこのような一般病床以外が占めている。一見、病院数やベッド数が多くて医療環境が充実しているように見えるまちも、急病の時に使える病院が充実しているとは限らない。

特養老人ホームが多く、待機者の少ないまちほど実はトホホ

入所待機者を減らすため、特養ホームの整備を続けると、その地元に住む65歳以上の人たちが納める介護保険料が上がってしまう。さらに、そうして特養ホームを増やすと周囲のまちから、それを目的にサービスを受けようとなだれ込んでくるため、結局、待機者が減らない。

定住・永住=魅力あるまちという考え方は古い?

行政は、既存住民の転出を減らし、転入者を増やそうとし「ゆりかごからお年寄りまで住みやすいまちNo.1」という総花的なまちづくりを目指そうとする。しかし、一部のまちづくり専門家の間では、定住率が高くなく、転入・転出が多い、いわゆる“新陳代謝が続いているまち”ほど、活力が維持されているのではないか、という意見が出ている。

行政が「不毛な住みたいまちアピール」を止めて、本当にやるべきこと

「住みたいまちランキング」で使われる子育て支援などは社会の重要課題ではあるが、行政が本当にお金をまわしていかなければいけないのは、社会インフラ(道路、建物)の更新。利用者の多い重要な施設にある設備の耐久年数が大幅に超えているにもかかわらず、こまごまとした維持修繕で、だましだまし延命させている状況がある。保育園の新設など、住民にとって目に見えやすい施設の整備だけでなく、地味であっても本当に必要な場所に予算を配分することが重要。

感想

本書の全編において紹介されている事例は、受益者負担のない及び不公平な受益者負担による住民サービス、住民サービスが充実し一見すると住みやすいまちに見えるが、実はサービスを受けられるのは一部の人だったりする市区町村など。

本書の結論は「住みたいまちランキング」に出てくるような分野にとらわれることなく、もっと別の重要なことに税金を使いましょうということ。行政トップが選挙公約に耳当たりのいいことを並べて当選する。公約は財政上の裏付けがないため、いざ公約を実現しようとすると、本当にやらなければいけないことにお金が回らなくなってしまう。耳当たりのいい選挙公約や「住みたいまちランキング」の裏には、不都合な真実が隠れていると、疑ってかかったほうがいいのかもしれない。

目次

  • 第1章 「子育てしやすい」をアピールするまちのウソホント―認可保育所や小児医療費助成制度が整ったまちの不都合な真実
  • 第2章 「子育てしやすい」環境とは何か―子育てに向く立地の視点から
  • 第3章 安全・安心なまちの裏事情
  • 第4章 便利なまちにも落とし穴がある
  • 第5章 迷惑施設のあるまちは、意外に住みやすい?
  • 第6章 イメージのよい、住みたいまちは本当に暮らしやすいか?
  • 第7章 マンション駅入を煽る「常識」に騙されるな
  • 第8章 まちの魅力向上と、あるべき住民負担について考える
  • 最終章 行政が「不毛な住みたいまちアピール」を止めて、本当にやるべきこと

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