読書ノート「「農業を株式会社化する」という無理 これからの農業論」

基本情報

  • 著者:内田 樹(武道家)、藤山 浩(持続可能な地域社会総合研究所所長)、宇根 豊(百姓、思想家)、平川 克美(文筆家、隣町珈琲店主)
  • 出版社:家の光協会
  • 出版日:2018年7月1日
  • 読了日:2018年11月2日

概要

内田 樹、藤山 浩、宇根 豊、平川 克美という4人がそれぞれの立場から、そもそも農業とは何か、これからの農業がどうあるべきかについて論じている。

印象に残った言葉や表現

農業は「弱い」もの(内田 樹)

農業を語る際に「強い農業」という言葉が使われる。農業はそれ自体が「弱い」ものである。農業の規模や収益は、GDPが10倍になったから、それに併せて10倍になるというものではない。農作物は、人々の腹の中に収まるもの。農作物には人間の消化器官の容量の限界と「腐ると食えない」という消費期限の限界がある。農作物を他の商品と同列に論じることはできない。

多様な食文化というリスクヘッジ(内田 樹)

世界各国の多様な食文化は、飢餓の回避のための工夫。米、小麦、豆、イモを食べる集団が散らばっていると、米が病気により壊滅しても、他の主食により飢えをしのぐことができる。また、主食の上に固有の調味料をまぶす食文化が多い。このとき使われる調味料はだいたいが発酵食品。その臭いはそれを食べない人たちからは腐敗物にしか思えない。これは食糧確保上の安全保障となる。農業を営利事業にした場合は、農作物は費用対効果の高い単一作物化し、食文化も均一化してしまうため、これらリスクに弱い農業になってしまう。

農家が担う不払い労働(内田 樹)

農業が成立するためには、山、森林、河川などのすべての自然環境が整備されている必要がある。それらを整備するための、山に入って草を刈ったり、道路を補修したり、河川を補修したりという作業は、農家が日常生活において不払い労働として担ってきた。山林の管理や道路水路の補修だけでなく、祭礼や伝統芸能の継承も、不払い労働。祭礼や伝統芸能は、集団が存続するための求心力を備給するための装置。営利企業は「コストの外部化」が基本戦略のため、こういった不払い動労は担わない。

農業を資本主義から半分外す(宇根 豊)

農業の半分は資本主義の市場経済から外す。そこにお金にならないものの価値を評価する仕組みを作る。その農作物を作ることによって、お金にならない自然環境や風景を守っているという価値。ドイツでは、リンゴ農家のリンゴジュースを「之を買って飲まないと、この村の美しい風景が荒れ果ててしまう。」と言って買っていく。農業を資本主義から半分外すためには、このように村の風景は農家のためでなく、消費者のものだという価値観が、国民に広がらなければならない。

定常化へのマインドセットの移行(平川 克美)

GDPの6割を国内市場で占める日本。人口減少傾向に入った日本は、国内消費を支えている総人口が減っていくため、消費は伸びようがない。経済が成長過程を経て定常化に向かっている。定常化後の社会デザインを考えるためには、政府、企業人、国民が定常化マインドになる必要がある。定常化後の社会を考えるヒントが農業にある。毎年決まった量を、できるだけ長期にわたって収穫するという考え方そのものが、定常化の概念だからである。

二択のあいだで考える(平川 克美)

政治課題や経済問題について、「いいか悪いか」、「どっちをとるか」というかたちで問題提起がされている。「AかBか」という二項対立的な問いを発した瞬間に、人々はその間にある様々な答えの可能性を見なくなってしまう。思考停止がおきる。しかし、両端の考え方のあいだに細かいグラデーションがあるはず。両端のあいだに、なるべく長い問いのリストをつくる、細かいグラデーションをつくる。それが「考える」ことである。

感想

4人が共通して論じている点は、農業は他の産業とは違い、その存在理由は経済成長のためではないということ。

農業は、農作物を収穫する田んぼや畑だけでなく、周りの自然環境や風景と密接に関わっている。農業活動やそれによってできた農作物を食べるということは、自然環境や風景の保全という社会資本整備につながっていることを改めて感じた。消費者が「このリンゴジュースを買って飲まないと村の風景が荒れ果ててしまう。」という意識は、すぐには持てないと思う。小学校では田植えや稲刈りなどの農業体験を授業の一環として行っているところがあるが、草刈りや道水路の整備なども体験させて、自然環境や風景と農業が一体であることも教育していけばよいのかもしれない。

目次

  • ◎「農業を株式会社化する」という無理 内田 樹
  • 農業は「弱い」もの/食料危機は起こり得る/多様な食文化というリスクヘッジ ほか
  • ◎年に1%ずつで田園回帰はできる 藤山 浩
  • 「市町村消滅論」への違和感/人口1%取り戻しビジョン/3世代をバランスよく増やす ほか
  • ◎資本主義が再発見されたワケ 宇根 豊
  • 百姓仕事の不思議さ/「百姓」という呼称/資本主義のイメージ/なぜ資本主義に合わないのか ほか
  • ◎贈与のモラルは再び根づくか 平川克美
  • グローバリズムとインターナショナリズム/アダム・スミスは、グローバリストというよりはヒューマニストだった ほか
  • ◎巻末対談「若者はなぜ農村へ向かうのか」 養老孟司×内田 樹

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